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大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)26号 判決 1966年4月27日

大阪市東区横堀四丁目一六番地

原告

コンソリオイル株式会社

右代表者代表取締役

北村勝三郎

右訴訟代理人弁護士

広瀬長喜

大阪市東区大手前之町一番地

被告

東税務署長

水野清

右指定代理人検事

光広竜夫

検事 川井重男

法務事務官 戸上昌則

法務事務官 井上弘

国税訟務官 石黒俊一

大蔵事務官 勝端茂喜

右当事者間の昭和三九年(行ウ)第二六号行政処分無効確認請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。主文原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の求める裁判

被告が昭和三七年一一月一五日付で、原告に対してなした源泉所得税本税金一、一七六、四六四円とする納税告知並びに源泉徴収加算税額金二八一、〇〇〇円とする賦課決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の求める裁判

主文同旨

第二、当事者双方の主張

(原告の請求原因)

一、原告は石油類輸入品委託加工及び販売を業とする株式会社である。

二、被告は昭和三七年一一月一五日付で、原告に対し昭和三三年四月から昭和三七年三月までの源泉所得税に関し、請求の趣旨記載のとおりの源泉所得税本税納税告知(以下単に納税告知という)並びに源泉徴収加算税賦課決定(以下単に賦課決定という)をなし、その頃原告に通知したが、原告はこれを不服として同月一六日付で大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ同局長は昭和三九年三月一八日付で右請求を棄却する旨の裁決をなし、その頃原告に通知した。

三、しかしながら本件納税告知並びは賦課決定は違法であるので取消を求める。

(被告の答弁と主張)

一、原告は肩書地において石油製品販売業を営む株式会社である。

二、被告は昭和三七年八月三一日付で原告に対し、その昭和三三年四月から同三七年三月までの源泉所得税について、給与等の支払金額六、八一五、二八二円、算出税額一、二〇一、六六四円、源泉徴収加算税額二八七、二五〇円とする納税告知並びに賦課決定をなしたところ、原告は右納税告知並びに賦課決定を不服として、昭和三七年九月二一日被告に対し再調査の請求をしたので、被告はこれにつき調査し、その結果、昭和三七年一一月一五日付で原処分を一部取消し、原告主張のとおり、給与等の支払金額六、六八七、二八二円、算出税額一、一七六、四六四円、源泉徴収加算税額二八一、〇〇〇円とする再調査決定をなしたが、更に原告は右再調査決定をも不服として昭和三七年一二月五日大阪国税局長に対し審査請求をなし、同局長は、原告主張のとおり、昭和三八年三月一八日付で右請求を棄却する旨の裁決をなした。

三、しかして被告が右のごとき納税告知(但し金額については前記再調査決定のそれによる)をしたのは次の理由による即ち、

被告が原告の従業員等の所得税について調査したところ、原告は昭和三三年四月から昭和三七年三月までの間において、

(1) 従業員に対する給与を支払う際、その支払金額一、三五一、八六〇円に対する所得税額一一五、五三〇円

(2) 外国法人コンソリデーテツトオイルコンパロー(以下単に米国会社という)に対して別紙一覧表記載のごとく商標権使用料五、二六三、四二二円を支払う際、その所得税額一、〇五二、六八四円

(3) 翻訳料、講演料等を支払う際、その支払金額一七、〇〇〇円に対する所得税額二、五五〇円

(4) 弁理士等に対する報酬を支払う際、その支払金額五七、〇〇〇円に対する所得税額五、七〇〇円

以上合計一、一七六、四六四円をそれぞれ徴収し、且つその徴収の日の属する月の翌月一〇日までに納付しなければならないのに納付しなかつたので被告は原告主張の納税告知をしたものである。

四、しかして前項(2)の金五、二六三、四二二円(以下単に本件金員という)を商標権使用料と認定した理由は次のとおりである。

原告は従前日本コンソリデーテツドオイル製品販売株式会社と称し、米国会社との契約に基づき、米国会社の製品直売会社と共に米国会社の製造した潤滑油、同油剤等の日本国内における販売権を有すると共に、米国会社から技術指導を受けて、潤滑油剤等を製造加工し、米国会社の登録商標を付して販売する権利を許与されており、一方原告はその対価(製品販売及び商標権使用に対する各対価)を支払つてきたところ、昭和三三年六月二三日に至り、原告と米国会社との間において右契約(協定書により)を改正し、原告は米国会社に対し、金四〇〇万円で米国会社が有する別紙目録記載の登録商標権の共有持分権を取得し、更に米国会社は、前記コンソリデーテツトオイル株式会社を解散せしめ、昭和三三年六月二三日から昭和四〇年一二月三一日までの協定期間中は前記潤滑油剤等の直売営業を停止することとしたので、右期間中は前記潤滑油剤等の販売権(前記登録商標を付して販売する権利)は専ら原告に帰属することとなつた。

しかして原告の取得した商標権は共有契約による商標権の一部取得であるが、前記のごとく米国会社は協定期限の昭和四〇年一二月三一日までは前記潤滑油剤等の販売を中止したことに伴い、商標権の行使を停止する旨の特約をなしその結果原告は右期間中は商標権を専用しうることとなつたので、その専用使用料として、従前原告が製造加工した潤滑油剤についての技術の伝授並びに商標権の実施の対価として支払つていた売上高の四%相当額の手数料に代えて本件金員を支払つたものであるから、右金員を昭和三三年ないし昭和三七年当時施行の旧所得税法(以下単に所得税法という)第一条第二項第六号に規定する工業所有権の使用料と認定した原処分は正当である。

(原告の反論)

一、被告主張三、事実中、原告が被告主張のとおり(1)、(3)、(4)記載の金額を各支払つたこと、及び右金額に対する所得税額を納付すべき義務を有しながら期限迄にこれを納付しなかつたこと並びに記載の金五、二六三、四二二円(支払日時、金額も被告主張のとおり)を米国会社に支払つたことは認める。

しかしながら本件金員は後記の如く商標権使用料として支払つたものではなく、また米国会社は外国法人ではない。

二、被告主張四、の事実中、原告、米国会社、訴外日本コンソリデーテツトオイル株式会社の従来の関係、(昭和三三年六月二三日以前における潤滑油同油剤等の米国会社の商標権、日本国内における販売権などについて)原告と米国会社の商標権、日本国内における販売権などについて、原告と米国会社との昭和三三年六月二三日の契約(協定書)以後の同関係が被告主張の如くであることは認めるが本件金員は、原告が前記商標権を協定期間中専用することの対価として支払つたものであるとの事実は争う。原告は昭和三三年六月二三日付協定書によつて米国会社より前記商標権と共にその営業権を行使する余地がなくなつたので、以後原告は前記商標権を専用しうることとなつたのであるが、既述のごとく原告は商標権を取得しているのであるから当然無償で使用し得、米国会社に商標権の使用対価を支払う必要はない。しかして本件金員は米国会社の原告に対する業界情報の提供、取引先の紹介、斡旋原料選定、技術指導等の対価並びに国内加工油の手数料として支払つたものである。

(原告の主張)

一、仮に本件金員が被告主張のごとく商標権の使用料であつたとしても、原告は次の理由により右支払金員に対する源泉所得税徴収義務を負うものではない。即ち所得税法第一条第五項によると同法施行地に本店又は主たる事務所を有しない法人は同法施行地に源泉がある所得のうち同法第一条第二項第二号ないし第九号に掲げる所得の支払を受けるときは、同法により所得税を納める義務があり同法第四一条第一項によると右法人に対し前記支払をなす者はその支払の際、その支払うべき金額に対し百分の二十の税率を適用して算出した税額の所得税を徴収し、その徴収の日のする月の翌月一〇日までに、これを政府に納付しなければならない義務を有することとなつているが、右法人が同法施行地に本店又は主たる事務所を有する場合にはすべての所得につき法人税が課税される関係上所得税は課せられず従つて右法人に支払をなす者は前記徴収義務を有しないこととなるといわねばならない。そして米国会社はアメリカ合衆国カリフオルニア州において設立されたものであるが、昭和二八年六月一八日に東京都千代田区有楽町一の一〇所在三信ビル内に東京支社を設置して以来、同所において営業を継続し、東京法務局日本橋出張所にその旨の登記を、東京麹町税務署長に法人税等の申告をなし尚米国会社の代表者吉田樹正(又は利雄)は昭和三〇年頃から東京都に居住し、同社の事務を管掌して今日に至つているのであるから、結局米国会社は所得税法上日本に主たる事務所を有する法人というべきである。しからば原告は本件金員に対する所得税の徴収義務を有しないこととなるから本件納税告知並びに賦課決定は違法である。

二、尚又、仮に本件金員が商標権使用料であつたとしても、右支払金員については、日本国とアメリカ合衆国との間の二重課税の回避及び脱税の防止のための条約の実施に伴う所得税法の特例等に関する法律(以下単に特例法という)の適用があり課税は免除されているので原告は源泉徴収義務を有しない。

(原告の主張に対する被告の答弁と反論)

一、原告主張一の事実中、本件商標権使用料の支払を受けた米国会社が原告主張のごとく米国法人で日本に営業所を有する事実は認める。しかしながら原告が右源泉徴収義務を免れるためには先ず納税義務者たる右米国会社が所得税の免除を受けねばならず、そのためには米国会社の日本における法人税の納税地を所轄する税務署長に申請して、右会社が当時施行の所得税法施行規則第一三条の四所定の要件を備える法人であり、且つ支払を受ける所得が当時施行の所得税法第一八条第四項所定の所得(即ち同法第一条第二項第六号ないし第九号に定める所得)である旨の証明書の交付を受け、これを各所得の支払者に提出することを要するところ、本件においては右所定の手続を欠いているので支払者たる原告に源泉徴収義務を課した本件納税告知並びに賦課決定は適法である。

二、また前記条約実施に伴う特例法の適用を受けようとする者は右条約の効力発生の日たる昭和三〇年四月一日以後最初に支払を受ける日の前日までにその支払者を経由して源泉徴収義務者の納税地の所轄税務署長に、右特例法の施行に関する省令(昭和三〇年四月一日大蔵省令第一三号)第一条第一項所定の届出書を提出することとなつているところ本件においては右届出書の提出がないから右条約の規定(第七条)の適用はない。

(被告の反論に対する原告の答弁)

一、被告主張一の事実中、原告及び米国会社が所得税源泉徴収の免除を受けるに必要な所定の手続を経ていないことは認める。

二、被告主張二の事実中、原告又は米国会社が特例法の適用を受けるには必要な所定の手続を経ていないことは認める。

第三、証拠

(原告)

甲第一ないし九号証、同第一〇号証の一、二、同第一一号証、同第一二ないし一四号証の各一ないし四、同第一五号証を提出し、証人吉田樹正、同松尾友雄の各証言を援用し、乙第一号証の成立を認めると述べた。

(被告)

乙第一号証を提出し、証人川口正雄の証言を援用し、甲第一ないし五号証、同第一一号証、同第一三、一四号証の各一ないし四の成立を認め、その余の申号各証は不知と述べた。

理由

一、被告が昭和三七年一一月一五日付で原告に対し、昭和三三年四月から昭和三七年三月までの源泉所得税に関し、本税額を金一、一七六、四六四円不納付加算税額金二八一、〇〇〇円と変更する納税告知並びに加算税賦課決定をなしたこと、大阪国税局長が昭和三八年三月一八日付で右に関する原告の審査請求を棄却する裁決をなしたこと、そのいずれもがその頃原告に告知されたことは当事者間に争のないところである。弁論の全趣旨と、これによつて真正に成立したと認められる甲第一五号証、及び成立に争のない甲第一号証によると、被告は昭和三七年八月三一日付で原告に対し昭和三三年四月から昭和三七年三月までの源泉所得税に関し、本税額一、二〇一、六六四円、源泉徴収加算税額二八七、二五〇円とする納税告知並びに加算税賦課決定をなしたこと、原告はこれに対し昭和三七年九月二一日付で再調査の請求をなしたので被告において同年一一月一五日付で前記内容(一部取消)の再調査決定をなしたこと、原告はさらにこれを不服として同年一二月五日付で大阪国税局長に対し審査請求をなし、同局長は昭和三九年三月一八日付で右請求を棄却する旨の決定をなしたことが認められる。従つて原告は適法に前番手続を経て本訴提起(本件記録上昭昭三九年六月一八日本訴提起明白)に及んだということができる。

二、よつて本件納税告知並びに源泉徴収加算税賦課決定が適法か否かについて判断する。

原告が昭和三三年四月から昭和三七年三月までの間において、(1)従業員に対する給与を支払う際、その支払金額一、三五一、八六〇円に対する所得税額一一五、五三〇円、(2)翻訳料講演料等を支払う際、その支払金額一七、〇〇〇円に対する所得税額二、五五〇円、(3)弁理士等に対する報酬を支払う際その支払金額五七、〇〇〇円に対する所得税額五七〇〇円をいずれも納付すべき義務を有しながらその納期限までに納付しなかつたこと、(4)米国会社に対し別紙一覧表記載の日時にその金額(本件金員合計五、二六三、四二二円)を支払つたこと、なお、原告と米国会社、訴外日本コンソリデーテツドオイル株式会社の従来の関係(昭和三三年六月二三日以前における潤滑油、同油剤等の米国会社の商標権、日本国内における販売権などについて)原告と米国会社との昭和三三年六月二三日の契約(協定書)以後の同関係が被告主張四の如くであること(但し本件金員支払の性質は除く)は当事者間に争のないところである。

(い)  まず、原告は本件金員支払の性質は米国会社の原告に対する商標権使用料でなく業界の情報提供、取引先の斡旋、原料の選定、技術指導等に対する報酬であると抗争するのである。成立に争いない甲第三ないし五号証、同第一三、一四号証の各一ないし四、同じく乙第一号証と証人吉田樹正、同川口正雄、同松尾友雄の各証言(但しいずれも後記信用しない部分を除く)に前記争いない事実及び弁論の全趣旨を綜合すると、原告は従前日本コンソリデーテツドオイル製品販売株式会社と称し、米国会社との間の契約に基づき、同会社の製品直売会社であつた訴外日本コンソリデーテツドオイル株式会社と共に米国会社の製造にかかる潤滑油、同油剤等の日本国内における販売権を有し、右製品を販売する一方、米国会社の委託を受けて、その技術指導の下に潤滑油剤等の製造加工をなし、米国会社の検査を経た上、これを原告が買受けて他に販売して来たところ、営業成績が芳しくなく、米国会社に対する負債もかなりの額に達したので、当時の原告の代表者安福又四郎等と現在の代表者北村勝三郎及び米国会社の代表者吉田樹正との間に、右北村が原告の経営を引受け、原告は右負債の弁済ないしは整理資金として四〇〇万円を米国会社に支払うこと、以後は右北村と訴外松尾友雄、米国会社が一致協力して原告の運営にあたることとの約定が成立し、右約定に基づき昭和三一年一二月に原告が米国会社に二〇〇万円を支払つたこと、次で昭和三二年二月一九日に原告と米国会社との間において原告は新たに米国会社の製造にかかる潤滑油等の販売権を取得すると共に米国会社の技術指導の下に潤滑油剤等を製造加工し、米国会社の登録商標を付してこれを販売し、手数料名義をもつて右技術指導並びに登録商標使用の対価としてその利益中代理店販売中味価格の四%(一ケ月平均約二〇万円)を米国会社に支払うとの内容の契約が締結され、その履行がなされて来たところ前記四〇〇万円中の既払分二〇〇万円の補てんと未払分二〇〇万円の支払にあてるために前記北村から四〇〇万円を出資せしめる必要と、前記四%相当の金員の支払(当時の実績で月額約二〇万円)が原告にとり過重な負担となつたことから右四〇〇万円の出資を一応経済的にも理由あらしめ、且つ爾後の米国会社への支払を軽減する目的をもつて昭和三三年六月二三日原告と米国会社との間において、(1)原告が米国会社からその日本国内における販売権及び商標権の持分二分の一を四〇〇万円で買受け、うち二〇〇万円を後記訴外日本コンソリデーテツド株式会社が解散し、その登記を了した時に、残金二〇〇万円は商標権の登録がなされたときに支払うこと、(2)米国会社は前記日本コンソリデーテツド株式会社を解散せしめて昭和三三年六月二三日から昭和四〇年一二月三一日までの間その製品の直売と商標権の行使を停止し、(3)原告は右期間中前記潤滑油剤等の販売権を独占するとともに商標権を専用し米国会社は原告の販路拡張に協力すること、(4)これに伴い原告は米国会社に対し前記手数料名義による代理店販売中味価格四%の金員の支払に代え新たに月額一〇万円(但し昭和三六年以後は原告の業績に従いこれを増額することを考慮する)の報酬金名義の金員の支払を約したこと、なお、右一〇万円は当初は一括して支払われ、後に至り、うち七五、〇〇〇円が訴外吉田樹正に、うち二五、〇〇〇円が訴外米国会社の駐日代表者たる長島広明に支払われそれぞれ領収書が作成されているが、右吉田の領収書中にはロイヤルテイー(即ち特訴権又は商標権の使用料)と記載されたものがあること、右一〇万円が二人に分けて支払われているのは米国会社の内部事情にもとづくものにすぎないこと、訴外川口正雄(大蔵事務官)の本件審査請求についての調査の際にも原告主張の情報提供等のサービスについては具体的裏付けとなる何等の証拠も存しなかつたこと、また商標権が共有であつても、尚その専用を訴すにつき専用使用料を徴収することは可能であり(業界においても)往々行われていること等の事実が認められる。証人松尾友雄、同吉田樹正の各証言中右認定に反する部分は容易に措信しがたく他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そして右認定事実に徴すれば昭和三三年六月二三日以後における月額金一〇万円の報酬名義の金員は米国会社が原告の販路拡張に協力することへの報酬という意味(これは米国会社が原告に商標権を専用せしめることに随伴して提供されるサービスであつてその品質の保持と売上の増大によりこの増大により報酬月額の増加が見込まれる約で単なるサービスの多寡によつて左右されないに多大の関心を有するが故に行うサービス、結局は商標権を専用せしめる対価)が加わつたとはいうもののなお実質的には従前の手数料名儀の四の技術指導ならびに商標使用の対価と変化なく、ただ原告が商標権の持分二分の一を取得したため、その名儀並びに支払の額を変更したにすぎないものであつて、要するに昭和三三年四月分から昭和三七年三月分までの本件金員の支払は米国会社の商標権使用の対価であると解することができる。しかし、甲第六ないし八号証、同第一二号証の一ないし四、同第一五号証(以上は証人松尾の証言と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる)、同第九号証、同第一〇号証の一、二、(以上は証人吉田の証言により真正に成立したものと認められる)中には本件金員の支払は米国会社の原告に対する得意先斡旋等の対価であることを窮わせる記載も存するがそれらはいずれもその作成日付、内容等から見て本件納税告知並びに賦課決定又は再調査決定後に被告又は訴外大阪国税局長に対する不服申立のために作成されたものであつて、その具体的裏付けを欠くので容易に採用することができない。

そうだとすれば本件金員の支払が旧所得税法第一条第二項第六号にいう工業所有権の使用料の支払に該当するとする被告の主張は理由がある。

(ろ)  ついで、原告は、米国会社は日本に本店又は主たる事務所を有する法人即ち法人税法上のいわゆる内国法人であるから、本件金員につき所得税を納付すべき義務はなく従つて原告は所得税の源泉徴収義務はないと主張する。ところで昭和三三年乃至三七年当時施行の旧所得税法と旧法人税法(以下単に所得税法、法人税法というときは、この旧法を指す)によると法人の納税義務につき法人税法は同法施行地に本店又は主たる事務所を有する法人と、これを有しない法人とに分け、その課税所得の対象を異にし(同法一条一項以下)、所得税法もやはり同法施行地に本店又は主たる事務所を有する法人と、これを有しない法人とで所得税を課すべき対象となる所得の範囲を別異に定めている(同法一条四項及び五項、二条五項)。而して法人税法では右本店又は主たる事務所を有する法人を内国法人、これを有しない法人を外国法人と呼称している(同法二条)が、法人税法と所得税法とで右本店又は主たる事務所を有し又は有しないことの意義内容を別異に解することはできない。ところで、所得税法一条四項及び五項と同二条五項を照合すると、内国法人に対しては同法一条五項所定の所得に対してのみ所得税が課せられると解され、一方同法四一条一項によると内国法人に対して同一条四項所定の、外国法人に対して一条五項所定の各所得につきその支払をなす者に対して同条項所定の所得税源泉徴収義務を課するとともに法人税法は一般的には、外国法人につき、同法施行地にある資産又は事業の所得については法人税を課する(同法二条)とし乍らも、同法施行地に事業を有しない外国法人については前記の方法により所得税を徴収された所得に対しては法人税の対象とせず(同法五条の四第一項)、またその余の外国法人について右の方法により所得税を徴収された所得税額はこれを法人税額から控除する(同法一〇条及び所得税法一八条二項、四項)こととしている。そして本件支払は商標使用料(若しくはこれと同一視すべきもの)であつて所得税法一条五項(外国法人の場合)所定の同条二項六号の所得の支払であり、且つ、同条四項(内国法人の場合)所定の所得にはかくの如きものは含まれていない。以上を綜合すると本件支払につき、支払者が所得税源泉徴収義務を負担するためには、被支払者が外国法人であることが前提ではあるけれども、その外国法人なりや内国法人なりやの基準となるべき前記法律施行地内に「本店又は主たる事務所を有し又は有しない」ことの解釈については、法人の住所たる本店又は主たる事務所の存否を基準としたものと解すべきである。何となれば所得税法は個人にあつても住所において基本的な所得税納付義務が生ずることとし納税地も住所を原則(同法一条一項、二条一項、六五条)としていること、単に法人税の納付義務の発生の面からみれば、同法施行地内に資産又は事業の所得がある法人かどうかの区別だけが必要であり、当該法人の住所の他に更に国内に主たる営業所等の存否をもつて前記所得税法一条四、五項の様な区別をつけるべき実益に乏しいこと、主たる事務所の解釈が法人の住所を意味しないとすれば、国内に数個の営業所を有する法人につき、その主従の価値判断を課税手続上に導入して来なければならず、納税地の決定(法人税法四六条の三)につき混乱を生ずる場合が存することなどからそう解すべきである。従つて右に本店というのは会社の本店(民法三五条二項、商法五二条二項五四条二項)を、主たる事務所というのは非営利法人につき民法五〇条にいう主たる事務所の存することを指すものと解すべきである。ところで、米国会社が営利を目的とする会社であり東京都に営業所を有することは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証によると米国会社はアメリカ合衆国カリフオルニア州サンフランシスコ市一号ポスト、ストリート一六五六番地に本店を有することが認められるから米国会社の前記営業所は所得税法並びに法人税法にいう本店には該らないものといわねばならない。

また米国会社が日本に支店、出張所、事務所又はこれに準ずるものを有することを理由に所得税の免除規定当時施行の所得税法第一八条第四項)の適用を受けるためには、被告主張のとおり所定(同条第四項)の手続を要するところ、米国会社が右所定の手続を経ていないことは当事者間に争いがないので結局米国会社は(当時施行の)所得税法第一条第五項により所得税の納税義務があり、原告は同法第四一条第一項によりその源泉徴収義務を有することとなる。従つてこの点に関する原告の前記主張は採用できない。

(は)  更に原告は、本件金員支払には特例法の適用があり課税は免除されていると主張するのである。しかし右特例法第二条第一項は所得税法第一条第五項に規定する外国法人中、アメリカ合衆国の法人が支払を受ける日米所得税条約第六、七条に規定する工業所有権の使用料等で所得税法施行地にその源泉があるものについて同法第一七第一八、第四一条を適用する場合にはその税率(百分の二十)を百分の十五に軽減することを定めたものであつて原告主張のごとく所得税を免除する旨を定めた規定でないばかりか、右特例法の適用を受けるには被告主張のとおりの手続を要するところ、米国会社が右所定の手続を経ていないことは当事者間に争いがないから結局米国会社は右特例法の適用を受けることができず、従つて前記のごとく所得税の納税義務があり、原告は源泉徴収義務を有することとなるので、この点に関する原告の主張も亦採用の限りではない。

三、以上の通りだとすると、本件金員を商標権の使用料と認定し、その支払者たる原告に源泉徴収義務を課した被告の本件納税告知、並びに法定納期限までに完納されなかつたことによる源泉徴収加算税賦課決定は適法というべきであるから本件納税告知並びに源泉徴収加算税賦課決定の取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 福井厚士 裁判官潮久郎は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 石崎甚八)

目録

一、商標登録 第四七〇九八九号

一、同 第四七〇九九〇号

一、同 第四四八六三一号

一、同 第四八五七四六号

一、同 第四七五一八〇号

一、同 昭和二九年出願番号第一八二〇六号

<省略>

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